シャーレーが衣装を脱ぐ間、パーシャは真っ暗なすみっこにいました。パーシャはこんな目にあったことはありません。パーシャは美しいんです。パーシャは完璧なんです。こういうことは起こるはずがないんです。
「パーシャお嬢様、大丈夫?」と、スラッゴが話しかけました。パーシャは目を閉じて、くるっと後ろを向いてしまいました。「今は楽しい気分じゃないんだ。お願い、一人にして。」スラッゴは隅っこで体を丸く縮こませているパーシャを見ました。「私は、パーシャお嬢様の歌はとっても美しかったと思うよ」
「いいのいいの、あっちにいってて・・・。・・・本当にそう思うの?」とパーシャは片目を開いて聞きました。スラッゴは答えました。「正直な気持ちだよ。パーシャの高音の方がマノンの高音よりきれいだったよ。」「spasibo」パーシャは弱々しく笑って細い声で言いました。「パーシャお嬢様、それはどういう意味なの?」とスラッゴは聞きました。「ロシア語でどうもありがとうという意味なの」とパーシャは弱々しく答えました。「いいんだよ。」「これは英語でどういたしまして、という意味だよ。」
次の日メトロポリタン・オペラ・ハウスで歌った犬パーシャに関する記事が掲載されました。シャレーは笑って言いました。「あなたは有名よ!」その日は一日中、電話が鳴り止みませんでした。
その週末、サムとスラッゴも、他のシャーレーのお友達もみんなアパートでのコンサートに招待しました。シャーレーがピアノを弾いて、パーシャはモーツァルトを歌いました。ロシアの作曲家チャイコスキーを歌ったときはみんなかしこまって拍手をしてくれました。でも、マノンの大事な曲「ガボット」を歌い始めると、みんな立ち上がって声援をおくってくれました。「上手、パーシャ、素敵!」
スラッゴはみんなの興奮が収まるとパーシャに近寄り、いいました。「今夜はとってもきれいだよ、パーシャお嬢様」パーシャは微笑んでささやきました。「spasibo」「いつもよりも上手に歌えたよ。シャーレーがサムにパリのオペラがパーシャお嬢様に興味があるかもしれないって、いっているのを聞いたよ。」と、スラッゴがいいました。「わー、スラッゴ。もう私のことをパーシャお嬢様って呼ばなくってもいいわ。私は愚かだったわ。パーシャと呼んで。」スラッゴの目がきらきら光りました。「私達は明日一緒にお散歩に行くんだって。」
今は、パーシャとスラッゴ、サムとシャーレーはほとんど毎日みんなでお散歩に出かけます。でも、土曜日の午後には、パーシャはラジオの前で丸くなって、メトロポリタン・オペラ・ハウスのステージの生放送を聞くんです。彼女は、宝石をちりばめたネックレスをして、歌姫の隣にいる姿をまた想像するんです。
そんな風にパーシャはうっとり聞いて、マノンがどんなに素晴らしい声だったか・・・人間の・・・を思い出します。

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